取締役の任務懈怠に対する悪意重過失について
もくじ
取締役の悪意又は重大な過失
早速ですが、昨日ブログの続きです。
株式会社の取締役(役員)は、
会社の経営を委任されたに過ぎない
そんな存在であっても
その職務を行うについて
悪意又は重大な過失があったときは
取引先や顧客等の利害関係者
つまり第三者に生じた損害について
賠償する責任を負います。
(会社法429条)
では、
この“悪意”又は“重大な過失”
(以下「悪意重過失」とします)は
何に対して(誰に対して)の
悪意重過失なのでしょうか?
※ちなみに“悪意”の意味は
こちらのブログをご確認下さい。
例えば、
会社の職務における
取締役の“任務懈怠”
(取締役に当たり前のように
求められている任務を怠ること)
について、悪意重過失があるのか
※会社の仕事を、
いいかげんにしていて
それがトラブルに繋がるかも
知れないとわかっていて
怠っていたり、(悪意)
取締役としてあり得ない
ミスを犯したり(重過失)等。
もしくは
第三者に損害を発生させたこと
に対して、悪意重過失がある場合に
責任を負うのか?
※こういう取引をしちゃうと
あの取引先に損害を与えてしまうな…
とわかっていて取引したり(悪意)
取締役としてあり得ない
取引のミスを犯したり(重過失)等。
判例より
非常に難しい問題ではありますが
過去に裁判にて、一応の結論が
出ていますので
以下その判例を紹介します。
(結論が変わらない程度に
私が脚色しています)
ある株式会社には
代表取締役が2人いました。
(法律上全く問題ありません)
1人が
仕事ができるM代表取締役と
もう一人が
L代表取締役
(M代表取締役よりは仕事ができない)
M代表取締役は
L代表取締役に
重要な職務の執行権限など
一切を任せていました。
重要な職務とは、例えば、
大きな借金をするなど。
L代表取締役は
会社の経営に必要だとの判断で
ある日、M代表取締役の名前で
取引先から大きな借金をしました。
しかし、会社の業績が悪く
その借金を返せない
ことになってしまい…
その取引先は、
借金の名義人である
M代表取締役を
裁判で訴えたのです。
この場合、
取締役の悪意重過失が
取締役の任務懈怠について
判断されるなら
L代表取締役に
経営を任せきりにした
M代表取締役に
悪意重過失があるということで
M代表取締役が取引先に対し
責任を負うことになる
と考えられますし
一方で、
第三者(取引先)に損害を与えた行為
に対しての悪意重過失で
判断されるなら
M代表取締役は
その借金のことについて
知らない訳ですから
責任は
M代表取締役ではなく
L代表取締役にあると
考えられます。
裁判では、一体どちらで
判断をされたのでしょうか?
判決
この裁判では、
裁判官の間でも意見が対立し、
かなり激しい議論がなされたと
聞きます。
結論(判決)はというと
取締役の任務懈怠について
悪意重過失が求められる
とされ
M代表取締役は
借金をした取引先に対して
責任を負う
ということになりました。
つまり、第三者に対して
直接に損害を与えてしまった行為
に対する悪意重過失までは
必要ないということです。
M代表取締役は
Ⅼ代表取締役に
経営を一切任せていました
その為、M代表取締役は
その取引先から借金をすること
さえも知らなかった(善意)し、
重過失も無いわけです。
ただし、L代表取締役に
経営を一切任せっきりにして
自分の名義で借金を自由に
させることができる会社の体制を
作ってしまった事
が任務懈怠にあたり、
いずれ
トラブルが起こる可能性があると、
取締役なら当然判断できたのに…
ということで、
悪意重過失があると判断され
その悪意重過失があると判断された
任務懈怠により“間接的に”
取引先に対して返せない借金をし
損害を与えてしまった…。
という事になったのです。
まとめ
判例の会社のように代表取締役が
複数名いらっしゃる株式会社で
例えば
代表取締役会長
代表取締役社長
のように、会長は経営に
ほとんど口は出さないけど
会社のハンコ(実印)の名義は
会長のままで、
そのハンコ(実印)の管理は
社長がしている…
というような会社も
あるのではないでしょうか?
そのような会社は
今回ご紹介したような
トラブルに巻き込まれないように
注意すべきかと思います。